医師の育成プロセス:医学部の授業内容や研修医制度の仕組みを解説
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EBMの手法に基づいた診療ガイドライン

医師や薬剤師、看護師を主とする医療従事者や患者が、特定の診療環境において、診療の進め方や選択について正しい判断ができるようにサポートする目的で系統的に作成された文書のことを「診療ガイドライン」といいます。

医療の透明性を高める

診療ガイドラインが誕生する以前から、多くの「治療指針」あるいは「手引書」が存在していましたが、それらはその分野における権威者の経験、少数の専門家の合意に基づいたものがほとんどでした。これらに代わる形で近年は、EBM(根拠に基づく医療)の手法に基づいた診療ガイドラインを作成することが推奨されるようになりました。

厚生労働省の検討会では、90年代半ばから後半にかけて、限られた医療資源を効率的に活用しながら、医療の質を向上させるためには、EBMを推進することが重要であると指摘してきました。診療ガイドラインの作成は、EBMを推進するための方策として提唱され、疾患の重篤度と患者の多さ、健康改善や費用対効果の改善に対するガイドラインの有用度などを基準として、作成する診療ガイドラインの優先度がリスト化されました。

その後、厚生科学研究費の支援を受け、関連学会や研究班が中心となって今日に至るまで60を超えるガイドラインが作成されてきました。ガイドラインの内容は、医療の透明性を高めることで、患者の治療への参加を促すために、(財)日本医療機能評価機構が運営する「Minds」というサイトなどで見ることができます。

診療ガイドラインは、標準治療への指針であるため、医療従事者や患者に対して拘束力を有するものではありません。ガイドラインの根拠となるエビデンスは、エビデンスレベルが必ずしも高いわけではなく、日本人についてのデータ数が少ないという問題もあります。

また、診療ガイドラインの推奨グレードは、臨床的な有効性、臨床上の適用可能性、コストなどから総合的に判断して決定されますが、大規模な臨床試験に対する製薬企業の出資が増加しているため、製薬企業のマーケティング活動が入り込まないか、という懸念の声も聞かれています。