医師の育成プロセス:医学部の授業内容や研修医制度の仕組みを解説
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新人医師が医療機関を自由に選べる初期臨床研修

医師国家試験に合格しても、診療経験がないため医師としての仕事につくことはできません。そのため、医療の現場で患者さんの診察・治療を行うためには、2年以上の初期臨床研修を受けなければなりません。以前は自身の卒業した大学の医局に所属することがほとんどでしたが、現在は研修希望者が医療機関を自由に選択できるようになり、医療機関との希望を踏まえたうえで研修先を決定します。研修中の新人医師は、常勤医として研修を受けるので、給料がもらえます。

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初期臨床研修では、複数の診療科をローテーションで数ヶ月ずつ回り、指導医の立会いの下、診察や治療を行います。初期臨床研修では、内科、救急部門、地域医療は必修となっており、選択必修科目である外科、麻酔科、小児科、産婦人科、精神科のうち2つの科で研修を受けなければなりません。2年間でさまざまな診療かを経験することで、将来自分が目指すべき専門を決める手立てとします。

病棟の医師が看護師とともに受け持ちの入院患者さんの病室を訪れる「回診」は、病状の確認だけが目的ではなく、電子カルテ上の数値だけでは分からない、患者さんの全体像をコミュニケーションをとりながら把握する時間です。

患者さんが手術後の状態ならば、術後の痛み具合はどうなのか、食事はちゃんと食べれたかなどの質問をしながら顔色を確認したり、今後の治療方針、リハビリはいつから開始するなどを説明することで、患者さんの不安感の軽減にも努めます。病状はガーゼを剥がして、傷の状態をチェックしたり、ドレーンや点滴の状態を診ることで確認します。

回診は担当医が行うだけでなく、週に1度、病棟の責任者である部長や教授を先頭に、担当医のほか、病棟の医師、研修医、看護師らで一緒に見てまわる「総回診」もあります。総回診では、患者を受け持つ担当の医師が治療後の経過や今後の方針を部長や教授に説明し、それを受けた部長や教授が、患者さんに質問をして、病状を診ます。

総回診はドラマ(白い巨頭など)の影響で、病院内の権威主義の象徴のように誤解されることもあるようですが、治療経験の豊富な部長や教授が自らの目で、担当医や看護師の治療や処置に問題がないかを確認し、アドバイスをする教育の場なのです。総回診を通じて厳しいチェックを繰り返し行うことで、若い医師は成長していくのです。

初期臨床研修を修了すれば、自分だけで医療行為を行うことが認められますが、専門知識が十分ではないので、多くの医師が専門臨床研修に進み、自分が選んだ診療科を専門的に勉強しながら、豊富な知識や高度な技術、経験を有する「専門医」の資格取得を目指します。

専門臨床研修の期間は診療科によって幅がありますが、期間終了後も研究と臨床を両立させながらキャリアアップを目指す医師も少なくありません。一方で、臨床経験を積んだあとに、クリニックを開業し、地域のかかりつけ医を目指す人もいます。